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相続人申告登記と相続登記の比較と注意点

2023.12.20

相続登記申請の義務化が、令和6年4月1日から施行されることになりました。

 

施行日以降、相続人は、不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務化され、正当な理由なくこれを怠った場合、10万円以下の過料が課されます。

施行日前に発生した相続(ずっと放置している相続)についても、義務化の対象となり、令和6年4月1日から3年以内に正当な理由なく怠った場合、同様に過料が課されます。

勿論、相続登記の申請が遅れることにつき正当な理由が認められる場合は、過料は課せられませんが、正当性の判断については、厳しい基準が設けられることが予想されており、次のような特別な事情がある場合等に限定して認められることになります。

(1)数次相続等により相続人が極めて多く戸籍収集や相続人の把握が困難な場合

(2)遺言の有効性についての訴訟が係属している場合

 なぜなら、遅れる理由を何でも認めてしまうと、相続登記の義務化の意味がなくなってしまうからです。

そのため、「話し合いのきっかけがないから」、「話し合いがまとまらないから」、「多額の登録免許税が必要だから」等の理由は、そのほとんどが特別な事情とは認められない可能性が高いと思われます。

 

そこで、相続登記が遅れる理由の如何を問わず、申請期限内に法務局に対して申立てをすることにより、法定相続人(民法の規定により相続人の資格がある者)として住所氏名が登記された者については過料を課さないものとする「相続人申告登記」制度が新設され、相続登記の義務化とセットで施行されることになりました。

 

この相続人申告登記は、複数の法定相続人がいる場合でも、他の法定相続人の協力を得ることなく自分一人で申立てをすることができ、手続き費用も低額で、さらに提出書類についても、法定相続人であることを証明する戸籍謄本と住民票のみでよいため、非常に利用し易い制度となっています。

 

それでは、この相続人申告登記と相続登記(①法定相続 ②遺産分割協議)に関する注意点について考えてみたいと思います。

 

①法定相続による相続登記とは、民法で定められた相続人(法定相続人)全員の住所氏名とその法定相続分を登記する方法です。

法定相続人が複数のときは「共有者」、法定相続人が一人のときは「所有者」として登記されます。

 例えば、夫が亡くなり、妻・長男・長女が相続人のケースでは、「共有者持分1/2 妻」「共有者持分1/4 長男」「共有者持分1/4 長女」と登記されます。

この登記は、相続人の内の一人から申請することができますが、例えば、長男が自分の分「共有者持分1/4 長男」だけを登記申請することはできません。

必ず全員分の内容を一括して登記申請しなければならず、登記に必要な登録免許税も全員分を一括して納付する必要があります。

 

これに対して、相続人申告登記は、自分のみを登記することができます。

但し、登記される内容は法定相続人である旨と住所氏名であり、共有持分割合や他の相続人の存否については、登記情報から読み取ることはできません。

仮に、法定相続人として3名(妻、長男、長女)の相続人申告登記がされていたとしても、法定相続登記とは違い、その他に相続人がいないという保証はありませんので、登記情報を読み取る際は注意が必要です。

 また、自分のみの相続人申告登記をする場合には、不動産を「独り占めした」と他の相続人から誤解されないように、予め相続人間での申告登記制度の周知が重要と思われます。

 

②遺産分割協議による相続登記とは、相続人全員の協議により決定された内容を登記する方法で、権利を取得した相続人が登記申請を行います。

 もし、この遺産分割による相続登記に先立って、権利を取得する相続人以外の法定相続人が過料回避のために、自分のみの相続人申告登記をする場合には、法定相続の場合と同様に誤解を招かないように注意が必要です。

 

また、相続申告登記の情報は、広く経済活動にも活用されているため、自分が相続するかどうかわからない状況下で、他人に自分の住所氏名が知れ渡ることを避けたいと思う相続人にとっては、期限ギリギリまで利用を控えた方がいいかもしれません。

 

このように、相続人申告登記は簡便な手続きである一方、その活用に際しては、注意すべき点も多く、相続人間での誤解や紛争の火種とならないように慎重に対応する必要があると思われます。

 

最後に、相続人申告登記は、あくまで過料を回避するための一時しのぎですので、最終的な解決に向けての対策や、将来の相続対策としての遺言書の作成等についても、この機会に専門家に相談されてみてはいかがでしょうか。

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筆者紹介

酒井 謙次
酒井司法書士事務所 所長

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