超高齢社会になるにつれ、不動産の売主が高齢者というケースが増えているようです。実際、高齢になった親の有料老人ホームへの入居や、同居のためのリフォーム工事等の費用をまかなうために不動産を売却する案件に立ち会う機会が増えてきました。
契約の締結などを行うためには、意思能力が必要で、意思能力を欠いた状態でされた契約は無効になってしまいます。高額な不動産の売買契約の締結についてはより高いレベルの意思能力が要求されています。
不動産売買の媒介契約や売買契約時には、十分な意思能力がある場合でも、自宅の売却や引っ越し等の不安に伴う意思能力の低下、脳梗塞による緊急入院等によって、売買契約の履行(売買代金の決済および所有権移転登記等)を進めることができない状況に陥り、契約期限の遅延に伴う損害賠償や訴訟等、何ら落ち度のない当事者やその家族に負担や迷惑がかかってしまうこともあります。
高齢者が不動産を売却することを望まれている場合、意思能力がはっきりしているうちに、媒介契約から売買契約の履行(売買代金の決済および所有権移転登記等)を短期間で行うことが肝心です。
もし、意思能力や持病等につき懸念があるときは、媒介契約前に民事信託や任意後見契約等で備えることができますが、時間と費用がかかることを売主に提案することは、媒介契約締結に際して、むしろマイナスとなってしまうかもしれません。 売主とその家族からすれば、時間をかけない代金決済を期待しているはずだからです。
当然ながら、仲介者と司法書士は知恵を絞り、安全で迅速な不動産売買のために、売買契約条項や登記手続きに最善を尽くしていますが、売主の不測の事態に万能に対処できるものではないと言わざるを得ません。
数年後の不動産売却を検討されている場合や複数の不動産(アパートやテナントビル等)を所有している高齢者の場合は、将来的な不動産売買、賃貸借契約、管理委託契約等の法的な不安を取り除くため、意思能力がはっきりとしている間に、民事信託や任意後見契約等によって、万一に備えることが益々、必要と感じるようになりました 。